現在NETFLIXでも観れるスペイン映画『プラットフォーム』について書いていきます。
ジャンルとしてはSFホラーになります。(R15)
主人公が目を覚ますと塔のような建物の部屋の中にいます。
何階にも渡って階層があり、部屋の真ん中には穴が空いています。
その穴を通って、上の部屋から順番に食べ物を載せた台座が降りてきます。
ここがどこなのか、何故ここにいるのかが分からない点で、映画『キューブ』と似ている点もあります。
ワンシチュエーションものが好きな方、あまりワンシチュエーションものは
みた事が無い方は一度観てみるのも良いと思います。
ただ、まだ見ていない方は食事中は見ない方が良いかと思います。
あらすじ
主人公のゴレンが目を覚ますと建物の「48階層」だった。
そして、同じ部屋には初老のトリマカシがいた。
ここは、縦型の刑務所で、上の階から順に食べ物が降りてくる。
しかし、下の階の者が食べるものは、全て上の階の者が食べ残した残飯になる。
1か月後ゴレンはさらに下の階層の「171階層」にいた。
しかも、ベッドに縛られていた。
ゴレンはこの不条理なシステムの中で生きて行けるのか、
ルールに抗う事が出来るのか。
様々な階層を見ることで、人間の様々な側面が垣間見れる。
これは、社会の縮図とも言える階層の仕組みを分かりやすく視覚化してくれた映画だ。
スタッフ・キャスト
- ゴレン :イバン・マサゲ
- イモギリ :アントニア・サン・フアン
- トリマガシ:ソリオン・エギレオール
- バハラット:エミリオ・ブワレ
- ミハル :アレクサンドラ・マサンカイ
監督:ガルダー・ガステル=ウルティア
脚本:ダビッド・デソラ
ペドロ・リベロ
存じ上げない方が多いですが、もちろん、スペインでは活躍されている方々のようです。
主演のイバン・マサゲは、ミリオネアドッグという子供向けのコメディー映画にも出演
しているようです。
以下ネタバレ含みますので、未鑑賞の方はご注意ください。
ネタバレあり考察
主人公のゴレンは最初にトリマガシという老人と同部屋になったのですが、
最初、この2人が手を組んでこのシステムを変えていくのかと思いました。
前向きにこの世界を現状否定し、なんとか変えていこうとする主人公ゴレンと
この世界に諦めている老人トリマガシが、正反対の性格を活かしながら、お互いに
皮肉を言い合いながらも、世界を変えていくストーリーなのかと。
映画『最強のふたり』のような凸凹コンビを想像して、ワクワクしていましたが、、全然違いましたねw
「171階層」にいった時、相手を信じられず、トリマガシはゴレンを縛ってしまいましたね。
この時の憎たらしい演技は、さすがだと
思いました。表情も話し方も、陽気に台座の上で踊っている姿も本当に憎たらしく思えました。
ここのやり取りで印象深かったのは、
トリマカシは、「上の階層の奴らが私にこんな事をさせる」と言っていたが、ゴレンは、「上の奴らの問題ではなく、お前の問題だ」と言っています。実社会でも周りの状況を言い訳に使っている人も沢山いるし
、たとえ不遇な境遇にいても、犯罪を犯さない人も沢山いる。それを暗に示していると感じました。
ゴレンはこの後、トリマガシを食べたことにより、トリマガシが自分の一部になり、トリマガシの幻影に悩まされ続ける事となります。
2人目のルームメイトのイモギリという女性は、元々塔の管理側の人間でしたが、希望して塔に入ったようです。そして、「連帯」によってこの世界を変えられると信じています。イモギリは、連帯を信じて、何日も下の階層の人を説得しますが、結局はゴレンの脅しによってのみ下の階層の人は行動を変えませんでした。
やはり人の善意に訴えかけても、飢餓状態と隣合わせになっている人には、何を馬鹿げた事を言ってるんだとなってしまいます。今回の場合、何かインセンティブを与えれば下の階層の人は動いてくれたのでしょうか、ここの正解は非常に気になるところです。
そんな懸命に説得していたイモギリも愛犬のラムセス2世が死んだことで自分も絶望し、自ら命を絶ってしまいます。どんなに信念がある人でも、大切なものの消失によって、ポッキリ心が折れてしまう事は誰にでも起こりうる事です。
171階層で最も印象深いのは、ゴレンの性格の変容です。前の階層の時であれば、絶対に食べ物に汚物をかける等と脅すような性格では無かったと思います。また、あそこまで世界の変革を諦めている点も前とは随分違います。これはトリマガシを食べたことによる変化ももちろんあるかもしれませんが、最も影響を与えているのは同室者なのだと思います。
今回の同室者は理想を掲げ、なんとか世界を変化させようとする人物でしたが、前の階層ではどちらかと言えば、ゴレンがその役割でした。しかし、その役割を担う人がいるのなら、自分は空いている他の役割をやることになるのです。人の性格というのは自分自身の中にあるというよりも、他者との関係性の中で、表出してくるものなんだということが再認識できます。
隣でテンパっている人がいる時に自分がやたらと落ち着いてしまうあれみたいなものですかね。
持ち込んだ小説ドンキホーテを食べるシーンがあるので、その後はその思想もゴレンの中に取り込まれる事になります。
第6層で、聖職者のバハラットと同室になります。
2人は、上を目指すために、下に降りる決断をします。
2人で協力して、なんとか333階層まで、
パンナコッタを運ぶことに成功します。
管理者への伝言として持っていたパンナコッタでしたが、飢えている子どもがいた事で、その子どもにパンナコッタを食べさせてあげました。
自分の子どもを探している母親のフラグはここで回収されました。
16歳未満の子どもはいないはずのルールでしたが、その子どもが最下層で生き延びていて、それを伝言として上へ伝えるという選択をゴレンは選びました。その子どもに託したところで、映画は終わりました。最後は次の世代に託すという意味でもあるのかなとも思いました。
全体を通して
設定がとても分かりやすく、興味深かったために、展開がもう少し欲しかったというのが、正直なところでした。もっとリアルな心情の機微に触れられて、もう1ドラマあれば、面白かったのになあと感じました。
また、この階層社会への答えを期待していた部分もあったので、現実にも置き換えられる問と答えが提示されていると良かったと思ってしまいました。でも、その答えが分かっていたら、きっと戦争も無いだろうし、貧困も無いんだろうなと。98分の映画にその答えまで求めるのはさすがに期待し過ぎだとも思いました。
設定はとても面白いし、演出も良かったので、一度は観ておいて損は無いかな。
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